キリンの富士御殿場蒸溜所が造る「富士山麓 シグニチャーブレンド」。度数50%という数字だけ見ると身構えますが、実際に飲んでみると、力強さよりも先に甘さと複雑さが来る一本でした。まずは結論からまとめます。
| 味わい | オイリーで甘く、そこにスパイシーさ。50度らしいパンチもしっかり |
| 香り | パイナップルの南国感+アップルパイと黒糖の甘い焼き菓子っぽさ |
| おすすめの飲み方 | ロック(ストレートも良い)。ハイボールは濃厚になるぶん爽快感は無く、好みが分かれる |
| 価格帯 | 4,900円〜5,500円前後(オープン価格) |
| こんな人に | 濃い味・甘い系が好き/度数の高い酒に慣れてきた人/ロック派 |
今夜の1杯:富士の裾野が育てた、50度の落ち着き
ラベルに大きく描かれた富士山。棚から取り出すたびに、この潔いデザインが好きだなと思います。派手な装飾も、長い年数表記もありません。あるのは山の輪郭と、「Signature Blend」という控えめな一行だけ。
度数は50%。一般的なウイスキーが40%前後であることを考えると、かなり高めです。正直に言うと、最初にボトルを開けるときは少し身構えました。ところがグラスに注いで香りを取った瞬間、その警戒はあっさりほどけます。立ちのぼってきたのは、アルコールの刺激ではなく甘い果物と焼き菓子の香りでした。
背景と歴史:3種類のグレーン蒸溜器を持つ、稀有な蒸溜所

この一本を造っているのは、静岡県御殿場市にあるキリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所です。富士山の伏流水を仕込み水に使える立地で、1973年から稼働しています。
この蒸溜所が特別なのは、モルトとグレーンの両方を自社で造れる「複合蒸溜所」だという点です。しかもグレーン用の蒸溜器を3種類備えています。
- ダブラー:小規模な連続式蒸溜機。非常に珍しい設備
- ケトル:バッチ式のグレーン蒸溜機。国内では唯一
- マルチカラム:一般的な連続式蒸溜機
グレーンウイスキーというと「軽くてクセのない、ブレンドの土台役」というイメージを持たれがちですが、蒸溜器を使い分ければ、香味のタイプがまるで違う原酒を造り分けられます。富士御殿場はそれを1か所でやってしまう。この記事で感じた甘さの層の厚さは、ここから来ているのだと思います。
そして「シグニチャーブレンド」というこの製品の面白いところは、熟成年数にこだわらないという考え方です。何年物かを名乗るのではなく、「熟成のピークを迎えた原酒」だけを選び抜いてブレンドする。年数表記が価値の証明になりがちなジャパニーズウイスキーの中では、なかなか思い切った立ち位置です。
さらに、原酒本来の旨みを残すためノンチルフィルタード(冷却濾過をしない製法)を採用しています。後述するオイリーな口当たりは、おそらくこれが効いています。
発売の経緯も少し変わっていて、2017年4月に蒸溜所ショップとキリンの公式オンラインショップ限定で登場し、そこから約1年4か月を経て、2018年8月に全国発売されました。前身にあたる「樽熟原酒50°」は2019年3月に終売しており、この50度という個性を受け継いでいるのがシグニチャーブレンドです。
同じ富士御殿場蒸溜所の味を手軽に試したい方は、キリンウイスキー 陸 ハイボール缶のレビューもどうぞ。缶とは思えない「濃さ」がある一本です。
製品スペック
| 商品名 | 富士山麓 シグニチャーブレンド |
| 分類 | ブレンデッドウイスキー |
| 生産地 | 日本(静岡県御殿場市) |
| 蒸溜所 | キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所 |
| 原材料 | モルト、グレーン |
| アルコール度数 | 50% |
| 容量 | 700ml |
| 製法 | ノンチルフィルタード。熟成のピークを迎えた原酒を厳選してブレンド |
| 発売 | 2017年4月(限定)→2018年8月(全国) |
| 参考価格 | 5,000円前後 |
| 製造元 | キリンディスティラリー株式会社 |

テイスティングノート

見た目(Appearance)
光沢のある、温かみを感じる深い琥珀色。同じ琥珀でも、冷たく澄んだ色ではなく、内側からじんわり熱を持っているような色合いです。50度という度数を知ってから見ると、なるほどこの濃さかと納得します。
管理人この「温かみのある」という感じが伝わるでしょうか。グラスを傾けたときの照り方が本当にきれいで、飲む前からしばらく眺めてしまいます。
香り(Aroma)
最初に来るのはパイナップルのような南国系の果実香。そこにアップルパイと黒糖が重なってきます。焼いた生地とバターの甘い香ばしさと、コクのある黒い甘さ。フルーツの爽やかさと焼き菓子の甘さが、同時に立ちのぼってくる感覚です。



パイナップルとアップルパイと黒糖が同居している香り、と書くと欲張りに聞こえますが、本当にそう感じるんです。50度なのにアルコールのツンとした刺激が前に出てこないのが不思議でした。
味わい(Taste)
口に含むと、まずオイリーな質感が舌に乗ります。とろりとまとわりつくような口当たりで、これはノンチルフィルタードの恩恵でしょう。続いて甘さが広がり、そのあとからスパイシーさが追いかけてきます。そして最後に、50度らしいパンチがしっかりと効いてくる。
甘い→スパイシー→力強い、という順番で表情が変わっていくのが面白いところです。一口で終わらず、飲み込むまでに何度か印象が入れ替わります。



このオイリーさ、好きな人にはたまらないと思います。薄まらない、輪郭のある甘さ。そして油断していると最後にちゃんと50度のパンチが来るので、そこも含めて楽しい一杯です。
余韻(Finish)
余韻は長い。バニラの甘さが残り、そこからカカオやチョコレートのようなほろ苦い風味へと移っていきます。そして最後の最後に、かすかなピート。強く煙るわけではなく、遠くで焚き火の気配がする程度ですが、確かに感じられます。



この最後のピートが個人的にいちばんの発見でした。甘い甘いと思っていたら、余韻の終わり際にすっと影が差す。これがあるおかげで、甘さがくどくならずに締まるんだと思います。
ちなみに、ここで感じたピート感が何なのか気になった方はピートとは?ウイスキーのスモーキーさの正体もあわせてどうぞ。
最高の楽しみ方:まずはロックで


いろいろ試した結果、ロックが一番しっくり来ました。
- ロック(おすすめ):氷で少しだけ度数が和らぎ、オイリーな口当たりと甘さはそのまま残ります。時間をかけて溶けていく過程で、香りの出方が変わっていくのも楽しい
- ストレート:香りの複雑さを一番きれいに拾えるのはこちら。50度なので、少量ずつ、時間をかけて
- トワイスアップ:常温の水を数滴落とすと香りが開きます。度数が高い分、加水の余地は大きい一本です
- ハイボール(人を選びます):50度あるので炭酸に負けず、濃くて甘い、リッチなハイボールになります。ただし爽快感やキレはあまりありません。すっきり飲みたい日には向かない、というのが正直なところです
おすすめペアリング
余韻にカカオやチョコレートのニュアンスがあるので、そこに寄り添うものが合います。
- ハイカカオのチョコレート:余韻のカカオ感と重なって、ひと続きの味になります
- ドライフルーツ(いちじく・レーズン):黒糖の甘さと好相性
- ローストしたナッツ:オイリーな質感どうしがよく馴染みます
- スモークチーズ:余韻のかすかなピートを拾ってくれます
富士山麓 シグニチャーブレンドに関するよくある質問
Q. 50度は初心者には強すぎる?
ストレートでいきなり、というのは確かにハードルが高いかもしれません。ただロックや加水にすれば、40度前後のウイスキーとそう変わらない感覚で飲めます。むしろ度数が高いぶん、水や氷で薄まっても味が痩せないのが利点です。「安いウイスキーをハイボールにすると味が消える」と感じたことのある方には、この違いは分かりやすいと思います。
Q. ハイボールにしても美味しい?
正直に言うと、好みが分かれると思います。50度あるので炭酸に負けることはなく、濃くて甘い、リッチなハイボールにはなります。そこは間違いなく美味しい。
ただ、爽快感やキレはあまりありません。ハイボールに「シュワっと抜ける軽さ」を求めている方には、たぶん物足りない……というより、方向性が違うと感じるはずです。食事と一緒にすっきり飲みたい日は、素直に別のボトルを選んだほうが幸せだと思います。
逆に、「安いウイスキーのハイボールは味が薄くて物足りない」と感じたことがある方には、かなり刺さるはずです。これはこれで、他では出せない一杯です。
Q. 終売になったと聞いたのですが、まだ買える?
「終売」と表記している販売店もありますが、2026年時点でも継続して販売されています。終売になったのは前身の「樽熟原酒50°」(2019年3月終売)で、そちらと混同されているようです。実売価格も4,900円〜5,500円前後で比較的安定しています。
Q. ジャパニーズウイスキーなの?
原酒はモルトもグレーンも富士御殿場蒸溜所で造られており、国産原酒による日本のウイスキーです。ジャパニーズウイスキーの定義についてはジャパニーズウイスキーとは?歴史・製法・代表銘柄をわかりやすく解説で整理しています。
おわりに
「度数が高い=強いだけ」ではないことを、あらためて教えてくれる一本でした。パイナップルとアップルパイの香りで迎えてくれて、オイリーな甘さで包んで、最後にきちんとパンチとかすかなピートで締める。5,000円前後という価格を考えると、中身の詰まり方は相当なものだと思います。
濃い味が好きな方、ロックでじっくり飲みたい方に、特におすすめしたい一本です。逆に、軽やかでクリーンなものを探している方には向きません。そこははっきりしています。
同じく度数が高くて濃厚なブレンデッドが好みなら、ニッカ フロム・ザ・バレル(51.4%)も並べて飲んでみてほしいところです。
それでは、良いウイスキーライフを。


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