今夜の一杯:日常をリセットする「轟音」のようなスモーキーさ
今夜の一杯は、富山県・三郎丸蒸留所から放たれた数量限定品、「三郎丸蒸留所のスーパースモーキーハイボール」です。
通常、スモーキーなウイスキーといえば「ラフロイグ」や「アードベッグ」といったアイラモルトが思い浮かびますが、日本のクラフトウイスキー界の異端児・三郎丸は、それらに真っ向から勝負を挑みました。その数値、なんとフェノール値80ppm。
缶のプルタブを「プシュッ」と開けた瞬間、そこはもう蒸留所のウェアハウスか、あるいは焚き火のそばか。
立ち昇る香りに、思わず口元が緩んでしまいます。「今日はこれでリセットするんだ」という確かな予感。
日常のノイズを遮断し、自分だけの時間に没入させてくれる圧倒的な「煙」の体験。
今夜は、この衝撃的なハイボールと共に、煙の向こう側にある景色を探しに行きたいと思います。
背景と歴史:80ppmという未踏の領域へ挑む哲学

北陸・富山の地で、半世紀以上にわたりウイスキー造りを続けてきた三郎丸蒸留所。
彼らの代名詞といえば、なんといっても「スモーキー(ピーテッド)」への強烈なこだわりです。
昨今のジャパニーズウイスキーブームの中で、飲みやすいノンピートの原酒が主流となる中、三郎丸はその真逆を行きます。「スモーキーでなければウイスキーではない」と言わんばかりの情熱で、ヘビリーピーテッド麦芽を用いたウイスキー造りを突き詰めてきました。
限界突破の「80ppm」とは?
ウイスキーの「煙たさ」を表す指標であるフェノール値(ppm)。
一般的なスモーキーウイスキーでも30〜40ppm、アイラの巨人と称される銘柄でも50ppm前後が一般的です。
しかし、今回レビューする「スーパースモーキー」に使用されているのは、規格外の「80ppm」というスーパーヘビリーピーテッド麦芽。
これは単なる数字遊びではありません。
通年商品の「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」でさえ50ppmという高い数値を誇りますが、本作はそれを遥かに凌駕します。これは、三郎丸蒸留所が追い求めてきた「スモーキーという個性」の一つの到達点であり、飲み手に対する挑戦状とも受け取れるでしょう。
世界初「ZEMON(ゼモン)」が生む奇跡のボディ
しかし、ただ煙たいだけでは、美味しいハイボールにはなりません。
ここで重要になるのが、三郎丸蒸留所が世界で初めて導入した鋳造製ポットスチル「ZEMON(ゼモン)」の存在です。
地元の伝統産業である高岡銅器の技術を用いて造られたこの蒸留器は、従来の銅板溶接のスチルに比べて肉厚で、熱伝導率や触媒作用が独特です。
その結果生まれる原酒は、非常に肉厚でオイリー、そして重層的な旨みを持ちます。
この「ZEMON」由来の太いボディがあるからこそ、80ppmという強烈なピート香の爆発力に負けることなく、ウイスキーとしての濃厚な甘みと旨みをしっかりと支えることができるのです。
香料・保存料・糖類は一切不使用。「ウイスキーとソーダのみ」という潔い構成は、原酒のポテンシャルに対する絶対的な自信の表れですね。
製品スペック
| 項目 | 詳細 |
| 商品名 | 三郎丸蒸留所のスーパースモーキーハイボール |
| 分類 | リキュール(発泡性)① ※ |
| タイプ | ワールドブレンデッド・ハイボール |
| 原材料 | モルト、グレーン / 炭酸 |
| 度数 | 9% |
| 容量 | 350ml |
| フェノール値 | 80ppm(使用モルト) |
| 製造元 | 若鶴酒造(三郎丸蒸留所) |
| 参考価格 | 400円台(数量限定) |
※注釈:本製品は、三郎丸蒸留所のモルト原酒をキーモルトにしつつ、海外産のグレーンウイスキー等をブレンドした「ワールドブレンデッド」形式です。これにより、個性を爆発させつつも、ハイボールとして飲み続けられる絶妙なバランスを実現しています。
テイスティングノート
それでは、いよいよグラスに注いで、その真価を確かめていきましょう。
80ppmの衝撃、心の準備はよろしいでしょうか?

見た目(Appearance):クリアで力強い発泡
グラスに注ぐと、美しい透明感を湛えた淡いゴールドが現れます。
決して濃い琥珀色ではありませんが、その輝きは鋭く、液面から絶え間なく立ち昇る泡の勢いが、このハイボールの「若々しい力強さ」を物語っています。
炭酸の弾ける音が、パチパチと焚き火の音のように聞こえてくるようです。注いだ直後から、グラスの周囲の空気が一変するような、目に見えない「香りのオーラ」が漂い始めますね。
管理人色は淡いですが、騙されてはいけません。見た目のクリアさとは裏腹に、中身はとんでもないモンスターが潜んでいます。液体の粘度が少し高いのか、泡持ちが良いのも印象的です。
香り(Aroma):圧倒的な焚き火と、予想外のフルーティーさ
鼻を近づける前から分かっていましたが、ノーズはまさに圧巻の一言。
キャンプ場の焚き火、海辺の濡れた土、そして正露丸を思わせるヨード香が一気に押し寄せます。「煙い!」と思わず声が出るレベルです。
しかし、深く吸い込むと、そこには驚きがあります。通常版と決定的に違うのは、その煙の奥にある「濃密な甘い香り」です。
スモークの壁を突き抜けると、熟した穀物やバニラ、かすかに洋梨のようなフルーティーなアロマが顔を出します。単に煙たいだけでなく、非常にリッチで多層的な構造を持っていることに気づかされます。



80ppmと聞いて「煙幕」を想像していましたが、いい意味で裏切られました。煙の奥に感じる甘い香りが、どこか懐かしく、安らぎさえ与えてくれます。ずっと嗅いでいたくなる中毒性がありますね。
味わい(Taste):力強いアタックと広がる旨み
口に含んだ瞬間、強めの炭酸の刺激と共に、80ppmの煙が口内で爆発します。
ですが、不思議なことに「辛い」とは感じません。その直後に、トロリとした濃厚な甘みと旨みが舌の上を覆い尽くすからです。
これこそが「ZEMON」由来のオイリーな酒質の成せる技でしょう。強烈なスモークを、原酒の持つ厚みのあるボディが優しく包み込んでおり、角の取れたまろやかささえ感じます。
ドライでキレが良いのはハイボールとしての宿命ですが、通常版よりも「味の厚み(ボディ感)」が段違い。水っぽさは皆無で、まるでバーで飲む濃いめのハイボールのような満足感があります。



これは…すごい。「スモーキー=苦い」という常識を覆してきます。煙たいのに甘い。アルコール9%を感じさせない飲みやすさですが、旨みの密度が濃いので、ゴクゴク飲むのが勿体なく感じてしまいます。
余韻(Finish):終わらない燻製の記憶
飲み込んだ後も、ドラマは終わりません。
フィニッシュは極めて長く、深く続きます。喉の奥から鼻腔にかけて、上品な燻製香とモルティな甘みがいつまでも留まり続けます。
まるで上質な葉巻を嗜んだ後のような、あるいはキャンプの翌朝、服に残った焚き火の匂いを嗅いだ時のような、どこか切なくも心地よい充足感。
「余韻だけで酒が飲める」と言っても過言ではないほど、このスーパーヘビリーピーテッドの真骨頂を味わえる時間です。



ひと口飲んでから5分経っても、まだ口の中が美味しいです。この長い余韻を楽しめる点こそ、缶ハイボールの枠を超えた「高級ウイスキー」の証左ではないでしょうか。
最高の楽しみ方:この一杯を主役に
この「スーパースモーキーハイボール」は、食中酒としても優秀ですが、まずはこの強烈な個性を単体で味わってみてほしいというのが本音です。
1. 温度変化を楽しむ
基本は氷をたっぷり入れたグラスでキンキンに冷やして飲むのが一番です。炭酸の爽快感とスモークのキレが際立ちます。
しかし、あえて氷を入れずに冷蔵庫から出したそのままで、少しずつ温度が上がっていく変化を楽しむのも一興。温度が上がると、原酒の持つ「フルーティーさ」や「オイリーな甘み」がより前面に出てきます。
2. ペアリングの提案:クセにはクセを
この力強いお酒に合わせるなら、おつまみにも「負けない個性」が必要です。
- 燻製ナッツ・いぶりがっこ: 定番ですが、スモーク×スモークの相乗効果は間違いありません。
- ハードタイプのチーズ(コンテやミモレット): 濃厚な旨味が、ウイスキーのコクと同調します。
- 脂の乗ったステーキ・スパイスカレー: 牛脂の甘みや、クミンなどのスパイスにも負けない力強さがあるため、コッテリした食事の脂を切るウォッシュ効果も抜群です。
コンビニで買うなら、「ビーフジャーキー」や「スモークチーズ」があれば、今夜の晩酌は優勝決定ですね。
おわりに
三郎丸蒸留所の「スーパースモーキーハイボール」。
それは単なる「煙たいお酒」ではなく、作り手の情熱と技術が凝縮された、飲むアート作品でした。
80ppmという数値に怯む必要はありません。その煙の向こう側には、ウイスキー本来の甘美な世界が広がっています。
いつものハイボールに飽きてしまった方、日常に強烈なアクセントが欲しい方。今夜はぜひ、この「飲む焚き火」で、心まで燻されるような深い時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?


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